それは、航海士ナミさんの一言から始まった。








A favorite person




「ルフィは、ゾロのどこが好きなの?」
「んー?」


その日は、ゾロの誕生日だった。
いつものように大盛り上がりの宴となり、散々飲み食いして夜も更けた頃。
そろそろお開きにしようか、と腰を上げかけた、そんな頃合い。
ふと何かの気まぐれで、ナミがルフィに質問をしたのだ。
本当に他意のない、率直な疑問だった。

そんなナミの言葉に、他のクルー達は興味津々といった顔を隠しもせず、ルフィの顔を覗き込んだ。
ルフィの大きな目がパチパチと瞬かれる。

いつだってルフィの我が儘を聞いてやり、ある種1番の理解者とも言える緑頭の剣士。
手となり足となり、互いの夢の為に共に進んでいくと誓った相棒は、ルフィにとって初めから特別で。
その2人が、今では更なる親愛の情でもって結ばれているという事は、クルー達も周知の事実。
だから、聞いてみたくなったのだ―――ちょっとした好奇心で。

ルフィは、感情の読み取れないキョトンとした顔でクルー達を見返した。
片やゾロは、なんとも嫌そうな顔をしていた。

知らず知らずクルー達の期待は高まる。
もしかしたらとんでもない惚気話を聞かされるかもしれない、という恐れもあるけれど。
何か面白い話のひとつも聞けるかもしれない、という期待の方が勝っていた。
しかし、口を開いたルフィの言葉は、気が抜けるほど、いともあっさりしたものだった。


「顔」
「・・・顔?」
「おう!」


ニコニコとご機嫌な様子でルフィは笑う。
さも『何を今更。そんな事、言わなくても分かりきった事だ』とでも言わんばかりに。

しかし、その答えにはルフィ以外のすべてが割り切れない顔をした。
中でも特にゾロが。
それだとまるで、『顔しか褒める所がない』と言われているみたいだ。


「あら・・・船長さんは、こういう顔が好きなのね」
「だって、かっこいーじゃん!」
「つーか、・・・それだけ?他にはないのか?」
「んん?何が?」


この質問に首を傾げられては、肯定されたも同然。
先ほどまでの盛り上がっていた空気はすっかり冷え、クルー達は気まずそうに黙りこんだ。
誕生日特権で上質の酒を振舞われ、上機嫌だったはずのゾロも―――心なしか眉間の皺を倍増しにしていた。

嵐が来る。
クルー達は、そう確信した。

これまでにも大きな喧嘩は度々やっている。
どれも全て、言葉の行き違いだったり、何か勘違いが元だったり、といった痴話喧嘩なのだが・・・
しかし、それはもう、『喧嘩するほど仲が良い』などという可愛らしいものではない。
派手に船を破壊し、あわや大惨事になりかかった事も数知れずあるのだ。


「さぁ、そろそろお開きにしましょうか・・・各自、使ったお皿はキッチンへ下げてね〜・・・」
「おー・・・俺も眠たくなっちゃったなー・・・はははー・・・」
「俺は、明日の朝食の仕込みをしなくちゃな〜・・・」
「俺、片付けるの手伝うよ〜・・・あはははははは・・・」
「じゃあ、名残惜しいけど、私もこれで・・・」


白々しく薄っすらと微笑みを浮かべながら、ルフィとゾロをその場に残し、クルー達は立ち上がった。
このままこの場に居たら、確実に嵐の被害を被ってしまう。
そんな面倒はまっぴら御免のクルー達は、各々手近にあった食器やビンを抱え、大慌てでキッチンへ逃げ込んだのだった。


「なーに慌ててんだ、アイツら?」
「・・・・・・・・・・」
「ゾロも変だぞ?どうかしたか?」


ゾロは額に青筋を立て、奥歯を噛み締めて、己のイライラした気持ちと戦っていた。
ゾロが全身全霊で愛して止まないルフィ。
なのに、その本人に『顔だけの男』だと言われてしまっては、立つ瀬もないというものだ。
放っておくとこのままどこまででも沈んでいける―――ゾロはガックリと項垂れた。


「あれ?俺なんか変な事言ったか?」
「お前・・・」


あくまで無邪気に問うルフィには、悪びれる様子も悔いる様子もなく、更にゾロをヘコませた。
だが、これは口に出して言わないと、きっとルフィ本人には通じないのだろう。


「それは、俺がこの顔じゃなかったら、好きでなくなるって事か?」
「ん?」


拗ねてるみたいでどうかと思ったが、とりあえず言ってみる。
案の定、ルフィはゾロの気持ちにはこれっぽっちも気付かずに首を傾げるばかり。


「俺がこの顔じゃなかったら、俺を好きになってないって事か、と聞いている」
「へ?」


未だよく分からないと言いたげな顔で、ルフィはまたもや首を傾げた。
なんて物分りの悪いヤツだ・・・いい加減イライラも募ってきた。
ゾロは思わず出そうになった手を引っ込めて、今度は質問の角度を変えてみた。


「じゃあ・・・俺が、お前の好きな所は顔だ、と言ったら・・・どうだ?」
「おう!それは嬉しいぞ!」
「いや、だから・・・」
「だって、俺は生まれた時からずっとこの顔だもん。これから先もずっとだ!」
「まぁな・・・」
「て事は、ゾロは昔の俺もこれからの俺もずーっと好きって事だろ?俺と一緒だ!」


ニッコリ笑って言い放った言葉に、ゾロはガックリと肩を落とした。
そうだ―――コイツに、『例えば』とか『仮に』という概念があるとは思えない。
こんな質問は無意味なのだ。

それどころか、自分がルフィに向ける思いと、ルフィが自分に向ける思いには落差があるような気すらしてきた。
この、焦げ付きそうな思いは、ルフィ本人には伝わっていなかったのだろうか、と。
だが、その考えを翻すように、ルフィの次なる言葉がゾロの耳に届いた。


「んーとな?俺、ゾロの特訓してる時の厳しい顔が好き」


俯いたゾロの顔を下から覗き込むように、ルフィは自分からゾロの腕の中に納まって目を合わせる。
絡み合った視線に満足気に微笑むと、ルフィは更にうっとりとした目で言葉を紡ぐ。


「それから、俺ん事を見る優しい顔が好き・・・照れ臭そうに笑う顔も、ちょっと怒った顔も、全部」
「ルフィ・・・」
「ゾロ、俺の前だといろんな顔見せてくれるから・・・だから、好き」


それは、ゾロが見せる顔―――つまり、表情や感情など、ゾロのすべてを好きだと言っていたのだという事。

『ゾロの顔が好き』という言葉の陰には、そんな伝えきれない思いがあったのだ。
なのに、その気持ちすらも汲み取れず、ヘソを曲げてしまった自分は、本当に修行が足りない。
ゾロは、別の意味でヘコまずにはいられなかった。

とはいえ、もうちょっと分かりやすい言葉があると助かるんだが―――

言葉とは難しいものだ。
同じ言葉でも、人によって使い方も感じ方も違う。
ましてや、言葉を知らない者と言葉が少ない者とでは、その間の隔たりも深いという事で。

だから人は言葉を尽くすのだ。
この思いを、大切な相手に伝えるために。


「ルフィ・・・好きだ」
「うお?普段あんまり言ってくんないのに、何かサービス良いな!」
「誕生日だしな」
「んじゃ、俺ばっか嬉しいのって反対じゃね?ゾロが嬉しくないとダメじゃん」
「じゃあ、嬉しくさせてくれよ」
「んー・・・そうだなぁ〜・・・じゃ、ちゅーしてやる!」
「おう」


両手を頬に添えて、そっと唇を寄せてきたルフィの頭を、ゾロの手が後ろから掴んで。
小さく開いた口元に、噛み付くように口付けた。
何度も何度も触れては離れ、離れては触れ、深く舌を絡ませて、蕩けるような睦言を交わして。
その唇から舌先から思いは溢れ、心から互いを愛しいと思った。




「なぁなぁ、ゾロは俺のどこが好きだ?」
「全部」
「んん?何かずりぃな、その言い方」
「なんでだよ?」
「だって、それだけじゃ意味分かんねぇ・・・」
「お前に言われたくねぇよ」


これからもこんな調子で、誤解したり、気付かされたりするのだろう。
この突飛もない天然気質のお子様が相手では、先が思いやられると溜息ひとつ。
しかし、自分だって似たようなものだと自嘲気味に笑いながら、キリリと張詰めた空気の中、そっと腕の中の温もりを抱き締めた。


1番大切なこの温もりが、生涯変わらずこの腕の中にありますように。



「俺、ゾロのべろも好きだなぁ・・・」
「それ、アイツらに言うなよ」
「んあ?」



HAPPY BIRTHDAY ZORO !



ハピバゾロ!というワケで、急遽書いてみました。
微妙にお祝いしてるんだかどうだかな話になりましたが、当日に間に合って何よりです(汗)
欲しいと仰ってくださる方がいるとは思えないのですが・・・宜しければお持ち帰りください;

2006.11.10up


*大好きお友達、kinako様のサイト『heart to heart』さんで、
 DLFとなってました剣豪BD作品さんですvv
 ちゃっかりと頂いてきてしまいましたvv
 なんて可愛いお惚気話でしょうかvv
 
こんな可愛いお話をありがとうございますvv
 大切に読ませていただきますね?
 ではではvv

kinako様のサイト『heart to heart』さんはこちら→**


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